発足の経緯

2018年度から2年間に渡って実施された日本医療研究開発機構(AMED)事業 『研究データの質向上の指導者育成プログラム開発』(通論、各論①、各論②)において、本研究会の世話人は主として生物医学系の基礎研究におけるデータの品質に関する研修、教育プログラムを開発しました。開発に当たって重要視したポイントは、研究不正に取り組む視点を明確にするということでした。少し説明します。

研究不正に対しては、これまで素晴らしい倫理教育プログラムがたくさん作成されてきました。研究者はそれを学ぶことで、研究者が置かれている現状、研究者に課された責務等を理解し、社会性を持った一人の人間として立ち位置をしっかりと自覚することができます。一方で、研究不正や研究に対する疑義はなかなか無くなりません。それらに対して「品質管理」という考え方を把持することの重要性は、「代表世話人挨拶」で述べたとおりです。すなわち、研究不正への対処としては、「研究倫理」と「研究データの品質管理」という車の両輪が必要だということなのです。

品質管理という観点から研究不正に対処する場合、一番大切なことを一つ挙げるとすれば「追跡可能性を確保する」ということに尽きます。疑義が突き付けられたときに、その事象が再現できれば原因と過程の追及が可能になります。その結果、もしかしたら疑義は晴れるかもしれません。不正であることが判明したとしても、類似の不正に対する対策を検討することが可能になります。そして、それはそのラボのデータが高品質であることの証明につながっていくはずです。

ですので、我々の教育プログラムは、研究不正を無くすことを目的とするのではなく、データ品質を管理することで不正/疑義をコントロールすることを主眼としました。それが、研究データ管理の三原則であり、システム化への取り組みということにつながったのです。

ここまでは理論です。言ってみれば机上の空論です。この理論を実装したらどうなるか、この理論に基づいて研究者に研究を遂行してもらえるか、そもそもこの理論の有効性と限界はどこにあるのか、など今後時間をかけて検証していきたいことが、たくさん出てきました。であれば、このようなことを研究者の皆さんと一緒に考えていく場を作成しよう、と考えるに至ったわけです。

どうぞ皆さんの叡知をお寄せください。そして「科学立国 日本」の基盤をともに強固にしていきましょう。